夢とアラジン
「アリババくーん!」
「うおっ!?」
シンドバッドさんと別れて学校へ向かう途中、いきなり背中に誰かが抱きついてきた。
まぁ、誰かといってもあいつしかいねーけどな…。
「…アラジン、びっくりするだろー」
「うふふ、ごめんよアリババくん」
そう言って笑ったのは中学の後輩であるアラジン。
大体いつも後ろから抱きつかれ…あれ?
『大丈夫だよ、僕の王様』
そう言って"俺"に手を差し伸べるアラジン―
「…―ババくん?アリババくん…?」
「…へ?」
「へ、じゃないよ。どうしたの?ぼーっとして…」
「いや…何でもない」
「…そう?」
心配そうに見ているアラジンに心配ないと笑いかけ、話を振った。
「そういや、モルジアナは?」
「モルさんは今日部活の朝練なんだってー」
「あー…柔道部の朝練か」
「うん、もうちょっとで大会があるんだって」
「モルジアナも3年だしそろそろ最後だもんなー…」
「でも高校でも柔道部入るんじゃない?強いもん、モルさん」
「確かに」
そう話しながら校舎の前でアラジンと別れた。
小中高一貫校だから校舎が違うだけで、昼休みや放課後もよく一緒にいることが多かったりする。
教室に向かいながら思う。
朝、アラジンと会った時に見たあれ…。
あれで顔をしっかり認識できたのは初めてだった。
見慣れない格好で、力強く笑って"俺"に手を差し伸べていた。
"俺"?本当に俺だったかは分からないけど…。
そうやっていつもよりぼーっとしながら授業を受け、あっという間に放課後になった。
多少ぼーっとしてても授業は大丈夫。シンドバッドさんに迷惑かけないように常に上の中前後の成績を取るように勉強してるし。
「おーい、アリババ。今日遊べるか?」
「あー…今日は用事があるんだ。ごめん」
「いやいや、また今度遊ぼうぜ!」
「おう!」
この学校に編入した時は来るのが嫌だったが、みんな仲良くしてくれる。
母さんが亡くなる少し前に、父親が有名な会社の社長だっていうのは聞いていた。
ごめんなって謝ってた母さんに、大丈夫だって言った。母さんが俺のために働いてくれていて、父親がいなくても俺が母さんを守るって…。
母さんが倒れて病院に運ばれたのはそんな時だった。
病院に運ばれた翌日、人目を忍んで来た父親に初めて会った。
母さんが亡くなったのはその日の夜だった。
父親は、母さん―アニスの代わりに俺を引き取ると言った。憎んでてもいい、せめて成人するまでは…と。
確かに俺は何で母さんをほったらかしにするんだ!って思ってた。
でも、忍んで会いに来た日、今まですまないと静かに泣きながら母さんに謝っていた。母さんは気にしてないって笑っていた。
だから、大丈夫。ちゃんと母さんと父さんは愛し合ってたんだって分かったから。
だけど、それからは苦しい日々だった…。
「引き取ったアリババだ。仲良くするようにな」
「…アリババです。よろしくお願いします」
引き取られた屋敷とも言える家では、アブマド兄さんは俺をいないように扱い、サブマド兄さんも遠目で俺を眺めるだけだった。
学校も転校して一貫校に入らせられた。ただ、兄さん達とは別の学校だったのが幸いだった。
最初は編入で珍しがられたが、特にいじめなどもなく普通にクラスメイトと仲良くなった。
そんなある日、家に帰るのが嫌だと少し遅めに帰ろうと放課後、カフェテラスでコーヒー飲みながらぼーっとしてる時にアラジンと出会った。
「…わっ!」
「うわっ!お前危ないだろ…」
「えへへ、ごめんね。大丈夫?」
「ああ、俺は大丈夫だけどお前は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよー。ちょっとこぼれたけど」
同じくカフェでコーヒーを買ったアラジンだが、テラスで躓いてこけそうになったのを俺が助けたのが始まり。それから時々放課後に会うようになって、今のように仲良くなった。
さて、今日もアラジンはカフェテラスかな。
「あ、アリババくん!こっちこっち!」
「アラジン、そんな叫ばなくてもわかるって…」
そう笑いながら案の定カフェテラスにいたアラジンの所へ行った。
今日もコーヒーらしい。コーヒー好きだなー…。
「…大丈夫みたいだね」
「ん?何が?」
「今日のアリババくん、なんか考え込んでるみたいだったから」
「あー…大丈夫大丈夫。大したことじゃないし」
「…そうかい?ならいいんだけど」
そう話ししていると、ふとアラジンに相談しようと思った。
「…なぁ、アラジン」
「なんだい、アリババくん」
「……よくさ、夢を見るんだ」
「夢?どんな?」
「うーん…どんなって…。なんか、アラビアンみたいな雰囲気の夢なんだけどさ」
「……アラビアン?」
「アラジン?」
アラビアンって言った瞬間、なんかアラジンの周りの空気が変わった気がした。
あれか?アラビアンっていったらアラビアンナイトだし、「アラジン」は有名だからか?
「いや、何でもないよ。続けて」
「…んで、王宮とかあって、何でか剣とか魔法とかあんの」
「へー…すごい夢だね」
「だろ?…なんでこんな夢見んのか不思議なんだよなー…」
「…うーん…運命、だったりして」
「運命…か。何かを伝えたいってことか?」
あの夢が俺の何かを指しているかはまだ分からないけど、アラジンに言ってちょっとすっきりした。
「おっと、そろそろ帰らないと」
「もう?」
「ああ、今日はシンドバッドさんが早く帰れそうだから外食なんだ」
「うふふ、外食いいなー」
「たまにはってさ」
「そうかー。シンドバッドおじさんによろしくね」
「おう!また明日なー」
「また明日ね、アリババくん」
「…大丈夫だよ、僕の王様」
アラジンはそう言って笑う。
ちょっと寂しいけど、相変わらずアリババくんはシンドバッドおじさんが好きなんだねっと―