アリババの朝はシンドバッドを起こすことから始まる―。


「シンドバッドさん、起きてくださーい」
「う～…ん…」

シンドバッドさんは朝が苦手。
俺を引き取る前はどうやって起きていたのだろうか。
もしかしたらジャーファルさんに電話で起こされてたり？

「7時ですよー。今日は10時から会議なんでしょう？」
「…ん～…まだ寝ていたいな…」
「…シンドバッドさん、朝ご飯抜きにします？」
「…っ！それは嫌だ！」

朝起きない時はそう言えばシンドバッドさんは慌てて起きる。

「ほら、顔洗って着替えてください。遅刻したらジャーファルさんに怒られますよ」
「ジャーファルに怒られるのは怖いな…」



シンドバッドさんを起こしたら次は朝食と弁当。
朝食はいつも通り食パンやスクランブルエッグ、サラダだ。

「アリババくん、おはよう」
「あ、シンドバッドさんおはようございます」

挨拶は起こした時じゃなくていつも食卓でする。
時々起こした時にもするけど、なぜか自然とこうなった。ちょっと不思議。

「うん、いつもアリババくんの料理はおいしいなー」
「ありがとうございます。でも、シンドバッドさんも少しはできるようにしないんですか？」
「ああ…俺が作るよりもアリババくんが作った方がおいしいからね」
「…だからといって何も料理できないのはどうかと思いますよ」
「……善処します」

いつも通り話しながら朝食を食べ、弁当や身支度をする。

「今日は早めに帰れそうだから外食でもする？」
「え、今日早めなんですか。…そうですね、たまには」
「ああ、たまにはアリババくんも休まないと」

そう言ってシンドバッドさんは俺の頭を撫でた。


『アリババくん―』


「…？」
「ん？どうかしたのかい？」
「いえ……あ！もう出ないと！」
「…おお、もうこんな時間か」

なんだろう。
聞き慣れた声がしたような…。
声が聞こえた瞬間、夢で見た男の人がシンドバッドさんに見えた…。

「…気のせいだよな」

俺は学校の準備をしながらそう呟いた。



「じゃあアリババくん、仕事が終わったらメールするね」
「はい。でも無理はしないでくださいね」
「…頑張って仕事終わらすよ…」

シンドバッドさんはちょくちょく仕事をサボるそうだ。
この前、ジャーファルさんが困ったように愚痴ってたし。

「アリババくん」
「…はい？」
「……いや、何でもない」
「？」

時々シンドバッドさんは悲しそうに笑う。
引き取られて最初の頃にそのことについて聞いたが、はぐらかされて何も聞けなかった。
何故か今日はシンドバッドさんに問い詰めたくなった。
でも、またはぐらかされて終わるだけだ。
そう思いながら、下を向き横目でシンドバッドさんの横顔を見た。


『アリババくんはそうやって自分で抱え込んでしまうね…』


なんだろう。今日はよく夢の中の声が聞こえるような気がする。
今まで夢の中でしか聞こえなかった声が…。
でも、この声の正体を知るのが怖い。
今までの自分を壊してしまいそうで。

「…―アリババくん？」
「……え、はい？」
「いや…ずっと下向いてるから体調が悪いのかなと思ったんだ」
「いえ、大丈夫です！ちょっと昨日遅くまで勉強してて寝不足なんです」
「そうかい？勉強も大事だけどちゃんと寝ないと」
「はい、今日はちゃんと寝ます」

そうごまかしてシンドバッドさんより少し前に出て歩いた。

だから俺は気が付かなかった。
シンドバッドさんが複雑そうな顔で俺を見ていたことに―。



『アリババくん、君はいつ思い出すのかな』

“ シンドバッド ”は悲しそうに笑っていた―