落ち着く場所
ユーリはふと思った。
―自分が落ち着ける場所はどこなのか
旅の仲間であるカロルやジュディ達といて落ち着けないわけではない。
ただ、やはり―
「…君が考え込んでいるなんて珍しいね」
振り返ると、今想像していた人物が苦笑しながらこっちへやってきた。
自分は特に考え込んでいたわけではなかったのだが、やはり思い浮かぶのは―
「…フレンだな」
「え、どうかしたのかい?」
思い浮かべていた人物―フレンは少々驚いたような顔をしていた。
俺はそんなに変なこといってねーぞ。
「いや…何でもねー」
「…何かあったのか?」
何か感づいたのかため息を吐きながらフレンは聞いてきた。
特に何かあったわけではない。
ただ、自分が一番落ち着ける場所は、フレンの傍だと改めて思っただけだ。
フレンは、物心付く前からずっと一緒にいた片割れであり、己の半身のような存在だ。
自分とフレンで1人。今でもそう思っている。
でも、ずっとそういうわけにはいかない。
フレンは自分だけが独占していていい存在ではない。
いつかは離れる時がくる。その時俺は―
「ユーリ」
「…ん?」
フレンは少し寂しそうで悲しそうな複雑な表情をして、ユーリを抱きしめた。
「どうしたんだよ?」
「何だか…ユーリが僕から離れていってしまいそうで…」
「…んなことねーよ」
フレンは鈍いようで鋭い。特に俺の事に関しては。
俺がフレンの考えていることが手に取るように分かるように、フレンも俺の考えていることが手に取るように分かる。
物心付く前から一緒にいたのだ。相手の思考など何も言わなくてもわかってしまう。
「ユーリ、僕から離れていかないでくれ…」
「そんなに心配しなくてもどこにも行かないって」
「…うん」
俺はフレンが好きだ。恋愛感情の意味で。
伝える気はない。いつか離れてしまうのなら言わない方がいい。
ただこうやってフレンが俺を抱きしめていても、それは親愛や友愛の感情でだろう。
「…ねえ、ユーリ」
「ん、何だ?」
「…好きだよ」
「……俺も好きだぜ」
驚いたが、フレンがそうしてほしいなら俺も言う。
こんなこと言い合っても所詮は親愛的なものだ。
いつかフレンは結婚するだろう。客観的にみてもいい男だ。
そうしたら俺はフレンから離れられる。
「…」
「…フレン?」
フレンが望む通りに言ったはずなのに、フレンは不機嫌な雰囲気だ。
何か不機嫌になるようなことを言った覚えはない。
「ユーリはずるい」
「…は?いきなりなんだよ」
「…」
「お前の言ってることさっぱりわか…ッ!」
一瞬時が止まったように思えた。
何を思ったのか、フレンはいきなり俺にキスをしてきた。
「…ん!…ふ、フレン!」
「…」
フレンの顔を見ると、少し悲しそうだった。
そりゃあ、幼い時はおやすみのキスとかしたことはある。
だけど、ここまでしたことはない。あっても抱きしめる程度だ。
「ユーリ」
「…な、なんだよ?」
「愛してるよ」
「…ッ!」
そう言ってまた抱きしめられた。
愛してるとはどういう意味なのか。
「ユーリは知らないだろうけど、僕はずっとユーリのことが好きだった」
「…」
「君が傍にいてくれる間は言わないでおこうと思ったんだ」
「…なんで」
「だって、ユーリと会えなくなるのはもっと嫌だったから」
「だからって…」
「うん。…ユーリは僕のことどう思ってる?」
「…」
「ユーリが僕のことを幼馴染だとか親友だと思っているならそれで構わない」
「…フレン」
俺は、言わないでおこうと決心したことを今まさに言おうと思った。
言うつもりなどなかったのに、フレンのせいだ。
「…俺はさ、フレンの傍が一番落ち着く」
「…うん」
「だから…お前がどっか行ったら俺の落ち着く場所がねーよ」
「…ユーリ?」
少し驚いた顔をしているフレンに俺は仕返しをしてやった。