懐中時計


「私に何か用ですか?」
「…へ?」
「さっきから私の顔ずっと見てるでしょう」
「そ、そうか?」

そう指摘すると、不自然に視線を漂わせてごまかそうとする。以前に比べれば嘘をつくのもうまくはなってきているルークであるが、やはり嘘はうまくない。ガイたちは何か隠しているのは分かるが、やはりルークのようにすぐわかるようなことはない。だから聞かないのだが、ルークは不自然すぎるがために余計に聞きたくなるのだ、と考える。

「いや…別に何でもないよ」
「…そういうことにしておきましょう」

また静かになる執務室。旅の間はどうしても仕事は溜まってしまう。そして、時々陛下がするべき書類仕事が混じっていたので陛下行きに回す。いい加減陛下は仕事したらいいと思いますよ。本当に…ブウサギ燃やすべきですかねー。

「…ルーク」
「え…な、なんだ?」
「さっきから何です」
「…いや、やっぱりジェイドってすごいなーって思って」
「何が」
「ジェイドって大佐っていう階級の割に仕事量かなり多いって聞いたから…」
「………そうですね。確かに一般的なこの階級にしては多いでしょうね」

旅をする前から1日の仕事量は変わっていないから慣れているが、まとめてするのは確かに疲れる。今は旅の合間に仕事するから、あまりそういう風に見えないよう振舞っていたというのに。陛下かガイですね、ルークに余計な入れ知恵したのは。

「大丈夫なのか…?」
「…旅をする前からこうでしたから大丈夫ですよ。私の場合は陛下の幼馴染っていうのでいろいろ仕事回されるんです」
「そうなのか?」
「ええ、陛下が脱走して捕まらない時に陛下の代わりに仕事することもありますから」
「…え、それいいのか?」
「普通はいけないことですからね。陛下の場合は許可を出した書類を別に分けてから脱走しますので正直私がすると言っても陛下が許可を出したその書類に印を押す作業なんですよ」
「…それ陛下何て言ってたんだ?」
「何度も印を押すのが面倒だとか言っていましたね。まぁ将軍たちの許可は得て印は押していますから大丈夫ですよ」

本当はとても良くないことだろうが、陛下自ら許可も出している。信頼してそうしているのはわかりますが、それよりも脱走はやめるべきだと思うのですが、一向にその気配はありませんねー…。

「………」
「どうしました?」
「…ジェイドって信頼されてるんだなって」
「陛下の場合は幼馴染だからっていうのが大きいと思いますよ。さすがに軍に入った当初は将軍からの許可は出ませんでしたから」
「へー…」

ルークはなぜか少し落ち込んでいる。

「ところで、ガイたちと買い物に行くと言ってませんでしたか?」
「あー…うん、そうなんだけど…」
「…何か?」

ルークが緊張したかのようにデスクの方に来る。一体何があったのやら…と思っていると。

「ジェイド、仕事が終わったら時間大丈夫なんだよな」
「ええ、まぁ終わり次第ではありますが」
「…じゃ、じゃあさ…ちょっとだけ時間取れる…?」
「…いいですよ。後の仕事はそんなに時間かからないですからもう少し待っててください」
「う、うん…」

ルークにしては少し遠慮気味に…いやいつも遠慮してますけど、時間が取れるか聞いてくるなんて珍しい。



***



「…終わりましたよ」
「あ、うん」
「それで、何か用でもっ…!?」

「ジェイド、誕生日おめでと!!」

「…はい?」

終わったと分かるとルークは私の方にグッと迫るように来た。ルークとの距離はかなり近い。
ああ、そうか。今日は誕生日でしたね。

「ジェイド絶対忘れてるって陛下が言ってたから…」
「確かに誕生日だって忘れてましたねー…」
「んで、これプレゼント!」
「…これ」
「うん、この前懐中時計壊れたって言ってただろ?気に入ってたみたいだから、同じのはなかったけど似てるやつをさ…」
「………ふふ」
「…う、なんでそこで笑うんだよ」

拗ねたように言うルーク。最近街に寄る度に出かけていたのは探していたのかと思っただけ。

「いえ…ありがとうございます、ルーク」
「…うん!」



頼りなくても、ジェイドにもっと信頼してもらえるようになるから!と後日ルークが言っているのを聞いて、やはり落ち込んでいたのは陛下に嫉妬したからだったようです。