素直


うん、これはまずいな。

そうシンドバッドはアリババを見つつ思った。


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「入浴剤、ですか?」
「…ああ、シャルルカンからもらってね」

シャルルカンからもらったといっても、アリババが素直になるにはどうしたらいいかを相談した結果、この入浴剤をもらったというだけだが…。

「甘い匂いがしますね」
「たまには入浴剤を入れてみるのもいいと思ってね」
「確かにそうですね」

アリババは入浴剤に興味津々だ。
入浴剤はもとから少量だったが小瓶に書かれていたのが『身も心もとろとろむらむら!』といかにもな物だったため、違う小瓶に詰め替えた。

「入れてもいいですか?」
「ああ、いいよ。ただし…」

アリババはきょとんとした様子でこちらを見た。

「俺と一緒に入ってくれるならね」
「…え?シンドバッドさんと一緒に、ですか?」
「…嫌かい?」
「え、いや、そういうわけじゃっ…!」

そう聞くとアリババが断れないということを利用し一緒に入るように言った。

「もう。わかりました。一緒に入ればいいんでしょう?」
「よかった。たまには一緒に入りたかったから」
「う…」

アリババはいつも恥ずかしさからシンドバッドと一緒にお風呂に入ることはあまりない。
まあ今回は入浴剤のこともあるけれど。


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「~♪」

アリババは鼻歌を歌いながらシンドバッドにもたれかかっている。

入浴剤を入れてお風呂に入ったはいいが、だんだんと体が熱くなり始めた。
熱くなってきたと思っていると、アリババはもたれかかっていいかと聞いてきた。
普段遠慮してそんなことを聞かないアリババがそう言うものだから、これがあの入浴剤の効果か、とシンドバッドは思った。

「シンドバッドさん…」
「…ん?」
「何もないけどなんだか楽しいですね」
「…あ、ああ」

さっそく効いてきたのか、アリババはにへらっと無邪気に笑っていた。

「待ってる間寂しかったです…」
「アリババくん?」
「仕事はしなくちゃいけないのはわかってますけどやっぱり待ってるのは寂しいです」
「…ああ、ごめんね」
「わかってますから大丈夫ですよー」

そう言いながらも口を尖らせ、すねた様子のアリババ。

「寂しかったのは俺も同じだよ」
「シンドバッドさんも?」
「ああ、寂しすぎてジャーファルに言ったらちゃんと仕事しろと怒られたよ…」
「へへっ。シンドバッドさんも一緒ですね」
「ああ」

そして冒頭に戻る。
普段アリババは寂しいなどと口にはしない。
心の中では寂しいと思ってるだろうが、シンドバッドを気遣ってかあまり言うことはない。
シンドバッドとしてはそういうことも言ってほしいと思っているのだが。

余裕な感じで寂しかったのかと聞くつもりだったシンドバッドだが、自分から「俺も寂しかった」と言ってしまった。
シンドバッドもやはり入浴剤が効いているらしい。

「シンドバッドさん…」
「…」
アリババが最後まで言わずとも察したシンドバッドはキスをした。

「…ふふっ」
「?」
「抱きしめてもいーですか?」
「…っ!あ、ああ、いいよ」
「むぎゅー」

そういいながらアリババはシンドバッドに抱きついた。
少し幼げなアリババにシンドバッドは言ってみた。

「アリババくん、好きだよ」
「俺も大好きですよー」
「かわいいなー、アリババくん」

いつもなら恥ずかしがってあまり言ってくれないが、やはり素直になってるのか無邪気な笑顔で返してくれた。

「あーアリババくんかわいいなー」
「シンドバッドさんもかっこいいですよ!」

お互いに入浴剤の効果が出て笑顔でかっこいい、かわいいと言いあった。
その過程でそういう展開になるのも必然だろう。
お互い見つめ合っていつの間にか何度もキスしていた。


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「…腰、痛い…」
「アリババくん大丈夫かい?」
「シンドバッドさん…どうしてくれるんですか…」
「いやー、ごめんね。つい…」
「うぅ…」

つい、って…

じとー、とシンドバッドを睨むアリババだった。
その日、修行が中止になったのは言うまでもない。