「あれ、今来てるの直継だけ?」
「お、シロ!さっきまでカナミはいたんだが用事でちょっと席外すってさ」
「へー。ちょっとは平和に過ごせるかな…」
「いや無理じゃね?カナミがささっと終わらせてくるって言ってたし」
「あー…」

今日は特に集まると決めたわけではないが、やはり顔なじみだと自然と集まることが多い。そして少しの間とはいえ茶会の台風とも言われているカナミがいないのは平和なのだ。大体何故か巻き込まれる僕はほっとする。いや、別にカナミが嫌いだとかそういうのじゃなくて落ち着きたいだけだよ、うん。ちらっとサブ画面見て、気になっていたことを直継に聞いてみた。

「今度のイベントだけどさ」
「ん?…ああ、あの<ふるふるたんぽぽ集めよう>ってイベントか?」
「そうそう。参加する方向でいくってさ」
「おう!でも人数足りないんじゃなかったか?」
「それなんだけどね」

「私が参加したいから人数足りなくても参加けってーい、なのだよ!」

「カナミ…」
「お、カナミ用事終わったのか。でも大丈夫祭り?」
「心配ご無用!シロくん頼んだ!」
「やっぱり僕だよね…」

分かってたよ。ええ、もう頼まれる前からちょっと情報収集したりしてましたよ何か?
そもそもイベント当日はインティクス参加できないって聞いてたから僕に回ってくるんだろうなと思ったし、指示出さなくても情報収集はいつもするからいいんだけどさ。思わずパソコンの前で溜息付いてしまう。それを目敏く聞いたのか、カナミはニコニコ笑いながら僕に絡んでくる。

「なーに、シロくん。嫌?」
「嫌とかじゃなくてやっぱり僕かって思っただけ」
「ふーん…」
「まっ、インティクスいねーからシロになるもんなー」
「そりゃあ…シロくんは茶会のバスガイドだもん!」

バスガイド…さいですか…。いやもうどうでもいいよ…どうせ絡まれるんだし。ちょっと遠い目をしかけてた僕だが、直継が暇そうに言った。

「しっかし今日は俺ら以外集まらねーな」
「うーむ、集まり悪いなー」
「今お昼だし集まらなくて当然だから…」

今日カナミは有給で僕と直継は大学休み。夕方から徐々に増えてくけどアキバにいるプレイヤーを見ても今の時間は人が少ない。人数も集まらないからこの時間帯は比較的のんびりとした雰囲気なのだ。

「それにしても、茶会も大きくなったよねー」
「カナミがどんどん突き進む祭りだからだろ」
「えー?直継くんだって私と同じじゃない?」
「いや、カナミには負ける祭り」

直継とカナミが何やら言い合ってるがそれをスルーして、もう一つのパソコンでイベントの情報を集める。まともに取り合ってたら切りがないからそっとしておくのが大事だ。
それはともかく、今度のイベントはレイドとか戦闘系のイベントではなく採取系イベント。しかも個数を集めるのではなく完全ランダムなアイテムを集めるというイベントだと予告に出ていた。個数を集めるだけなら特に苦労はしないがランダムなアイテムを集めろというのは運が絡むため難易度が上がる。
エルダー・ テイルのイベントでは個人とギルド・グループで分けられ、個人とギルド・ グループで求められる撃退数や個数が違い、ソロでやっているプレイヤーも気軽に参加できるようになっている。特徴としてはグループという括り。グループはソロの集まりでできた集団で、僕たちのようなギルドに所属していない数人の集団で行動している人たちがイベントの期間中にグループを組めるというもの。ソロで参加するもよし、友達と一緒にグループを組んで参加するもよし。ただグループ単位のイベントの要求はギルドと同様となり、グループを組んでも人数が少ないと難しいということもあり、いくつかのグループをくっ付けて合同でこなすということが多い。

「シロ、俺はそこまで突き進んでないよな!?」
「直継くんも私と同じだって!ね、シロくん!」

「ごめん、何が…?」
「シロくん話聞いてなかったの!?」
「てかシロ一人黙って何してんだ?」
「いや、イベントの情報あさってたんだけど。…カナミも直継も一緒でしょ」

一応聞いてたというか聞こえてくるから話の内容だけは分かってるよ。面倒だから突っ込まなかっただけで。僕からしたら直継も結構どんどん行くぜ的な感じだから、直継ごめん。

「ほらぁー!シロくんだって一緒だって言ってるじゃない!」
「シロ酷いぜ…!俺は別にそう見えるだけでちゃんと考えてる祭り!」

「…昼間からそんな言い争いして何かあったの?」

「あれ?ナズナ、今日仕事じゃ…」
「シロおはようさん。いやー今日は早番で昼までなんだよ〜」
「おはよう…。それでこの時間からなのか」
「お、ナズナ聞いてくれよ!」
「そうだよナズナ〜!直継くん酷いんだよー!」
「…まず何の話かよく分からないんだけど」

この時間はおはようでいいのかな…と僕はちょっと思いつつ、直継とカナミに絡まれてるナズナを見てそっとしておくことにした。ごめんナズナ。
今回参加するイベントというかほとんど僕たちはグループで参加、なのだが…。

「…ところで、イベントのことなんだけど」
「もー直継くんひどいよう」
「カナミもだろ…」
「どっちも一緒なのはシロエと同意見かな…」
「な、ナズナまで酷い祭り…」

「…カナミさん、聞いてます?」
「え、うん、シロくん聞いてるよ」
「………参加できる人数が7人ぐらいでちょっと足りないけど本当に参加するの?」
「え、そんな少ない祭り?もうちょっといるかと思ってたぜ」
「ま、最初は参加しない方向だったからねぇー…」
「むー…参加メンバーは?」
「カナミ、KR、ぬるかん、直継、詠、ナズナ、僕…だね」

元々参加しない予定でいたからみんな予定入ってて27人中7人という少ない人数で参加になる。がんばればイベントアイテムの条件を満たすことはできるが、それなりにこなしておかないと7人ではちょっと厳しいかもしれない。ランダムなため人数が多ければいいということではないがいた方が総合的なドロップ確率は上がる。しかも今回土曜日の朝9時から夕方16時までの1日限定でランダムアイテムを15個集めるというイベントなのだ。イベントアイテムはそこまで貴重ではないが、カナミ曰く「たまには採取系イベントもやりたいし楽しそう!」という鶴の一声で参加が決まったのだ。

「そういえばナズナは仕事大丈夫なの?」
「ん?大丈夫大丈夫―。この前臨時で入った時の代休だからさ〜」
「ああ、それで。…でも効率的に採取しないと集められないかもしれない」
「確かに一回採取したらしばらく採取できない祭り」
「だから、ここでシロくんの出番なのだよ!」
「うん、採取ポイントを効率よく回れるように考えてくれってことでしょ…」
「そうそう!さすがシロくん分かってる!」
「シロエがんばれ〜」

はは…採取するために効率よく回る方法を考えるっていうのもたまにはいいかと思ってる時点で僕はカナミに影響されてるのかもしれない。というか確実に影響されてるな…。

「とりあえず参加メンバーにはあとでメールで連絡しておくから」
「シロくん頼りになるね〜」
「頼りにというかやらないとしょうがないんだけどね…」
「カナミだしな…」
「カナミだしねー…」

カナミだし…で通じる茶会メンバー。茶会の台風とも言われるカナミの天真爛漫さがあってこそなんだけど、たまには大人しくなってほしいと思うこともあるよ?でも、なんだかんだ言いつつカナミについていっている僕たちもカナミと同類かもしれないな。