束の間の


朝起きて、直継に「シロ誕生日おめでとう!」と言われて初めて今日は僕の誕生日だったことを思い出した。それを聞いたリガンさんとてとらが「おめでとうございます、シロエ様」「おめでと~!」と言ってくれた。
ここしばらくシルバーソードのメンバーとの特訓などですっかり忘れていた。誕生日といっても、現実世界だとまだ5月だから厳密には誕生日ではないが、直継に後で聞くと「だけど11月23日だし」と言っていた。メンバーも祝ってくれて、久しぶりにゆったりな気分を味わうことができたと思う。

それで、どうしてこうなったのかな、思い出せないや。

『私が直継くんに頼んで時間をつくってもらったから、ですかね』
「………僕の心を読んで返事しないでくださいと何度言ったら…」
『だってシロエくん、口に出てたよ?』
「え、嘘!?」
『本当』

遠征中のクラスティさんから念話が入って何かあったのかと思ったけど、「シロエくん誕生日おめでとう」と言われ脱力した。

「…それで今時間大丈夫なんですか?」
『ああ、三佐に少し時間くれるように頼んだからね。おめでとうございます、と言っていたよ』
「はい、高山さんに後でよろしく伝えておいてください」
『ああ。…プレゼントも何もないから今すぐにでもそっちに行きたいな』
「ほんとに来ないでくださいね、高山さんに迷惑かかるので」
『わかってるよ、多分』
「………」

いや、クラスティさんの気持ちも分からないわけではないけど。一応、恋人なわけだから。それでもやらなきゃいけないことだし。

「まぁ現実的にはまだ23ですけどね」
『…ああ、確かにまだ5月だからね』
「ええ」
『帰還については今は置いておきましょう』
「…そうですね」

今は考えても仕方がない。本当に帰れる保証など、どこにもありはしないのだから。

『目の前にシロエくんがいたら迷わずキスして抱きしめたんだけどな』
「…いきなり恥ずかしいこと言わないでください」
『どうして?今すぐにでも抱きしめてぐちゃぐちゃに…』
「わー!やめてー!」
『やだなーいつものことだろうに』
「この変態…!」
『ふふ』

なんだろうこのいつも通りっていう感じが心地いい。最近落ち着く時間なかったしなー。

「…好きですよ、クラスティさん」
『愛してます、シロエ』
「…っ!?」
『シロエ?』
「…卑怯ですよ」
『アキバに帰ったらゆっくり過ごそうか』
「そうですね、ゆっくりしたいものです」



<静かの海>から神殿へ蘇えったシロエが、遠征軍側からクラスティが行方不明になったと知らされ愕然となることなど、この時は思いもしなかった。