妹から見た兄の変化


最近お兄ちゃんは上機嫌だ。
親しい人にしか分からないぐらいの変化だけど。

何でそんなに上機嫌なのかと一度聞いてみたのだが、はぐらかされてしまった。
まぁ別に教えてもらえなくてもいいもん。誰とも違う着信音でメールが来たりオンラインゲームしている時が上機嫌なことが多いんだって、私知ってるから。
お兄ちゃんはゴールデンウィークを境に少し変わったように思う。時々考え込んだりちょっとドジったり。

とか考えつつ、合鍵を使ってマンションのオートロックを外す。一昨日来た時に忘れ物して、明日から授業で必要だから今日取りに行かないといけないんだよ。
エレベーターに乗ってお兄ちゃんの部屋まで行き一応インターホンを押す。

『………はい…玲衣?』
「あ、お兄ちゃん?忘れ物取りに来たー」
『あー…ちょっとだけ待って』
「え、うん」

いつもなら取り込み中じゃなかったらすぐに開けてくれるのにどうしたのかな?
もしかして彼女さんいたりして…いや、そんな暇あるならゲームする派だしそれはないか。

「玲衣、待たせてごめん。…ちょっと知り合いが来ててね」
「へ、知り合い?別に忘れ物だけ取りに来ただけだから気にしなくても…」
「いやこの際、玲衣には紹介しようと思って」

紹介?
ニッコリとした意地悪そうな顔を見て嫌な予感がしたため、忘れ物のことを諦めて明日友達に貸してもらおうかと考えてさっと引き返そうとした。

「…どうかしたんですか?」
「ああ…妹が来てね」
「え、妹さん?」

部屋の奥から聞こえてきた声にふと振り返ると、私と同じか少し年上のメガネの青年が玄関まで来ていた。
意外だ。あまり親しい人以外家に上げたがらないあのお兄ちゃんが青年を普通に家に上げている。

「こんにちは、兄がお世話になっているようで。玲衣と申します」
「え、いや、うん、こんにちは。城鐘恵です…」
「恵、動揺しすぎじゃないですか?」
「…悪いですか?」
「いや、君らしいと思うけど」

この会話だけでも分かる。お兄ちゃんは城鐘さんをたいそう気に入っているのだと。しかも名前呼び捨てときた。
まぁお兄ちゃんがここまで気に入る人も珍しいからいいんだけど、飽き性だからちょっと心配だなー…。

「玲衣、そろそろ中入って」
「んー、いいの?」
「ああ。言っただろう、紹介するって」
「あ、そっか」
「え、紹介するって何をですか?」

城鐘さんはきょとんとした顔でお兄ちゃんに聞いている。
ダメだ、その顔を見たお兄ちゃんが少し目を細めている。雰囲気が何気にあやしいんだけど、アレですか。お兄ちゃんと城鐘さんってアレな関係ですか。
さすがの私もお兄ちゃんの性格を熟知しているから、何となく雰囲気で分かっちゃう。最初はただ知り合いを紹介するだけだと思ってたんだけど、そっちの紹介なのね…。
もしかして、ここ最近のお兄ちゃんの上機嫌の理由はこの城鐘さんってことかな…。

「…お二人さん、玄関先でイチャイチャしちゃダメですよ」
「へ、い、イチャ…!?」
「…ああ、ごめん」

顔を赤くさせてわたわたしている城鐘さんはともかく、お兄ちゃんのあの顔は私が2人の関係を察したということに気づいてるって言っている。


これは、私に馬に蹴られろと…?


End.