キミは無自覚


「そういえば、マリ姐」
「ん、なんや~?」
「どうして”天秤祭”って名前付けたの?」

天秤祭初日、書類の件でマリエールと話す時間があったシロエは気になっていたことを聞いた。何故「夏祭り」や「アキバ祭り」とかではなく「天秤祭」なのかという疑問だった。

「特に理由はないんやけど…」
「え、ないの?」
「何てゆうんかな、頭でピンときたんよ!」
「な、なるほど…」

なんともマリエールらしい理由である。ただ、普通の夏祭りとかよりも特別な祭りに感じるからいいと思うけど。

「天秤祭でみんな仲よう楽しんでくれたら一番ええんよ」

ニコニコとマリエールはそう言って会議室を出ていった。


円卓会議のメンバーも天秤祭関連の仕事はあれど、比較的自由に楽しんでいるようだ。特に生産系ギルドは大地人との商売話で張り切っていた。
シロエはマリエールが会議室を出て行った後、少し書類仕事をしていた。冒険者も大地人も楽しんでいるが、シロエは楽しむよりもまず天秤祭関連の円卓会議の仕事をしなければならず、朝直継たちにこういう時ぐらい休めって!と言われたのだが…。

「こういう事務処理仕事っていつも僕だもんね…」

シロエだってせっかくの祭りだからいろいろ回りたい。しかしだからといって仕事を放り出すと何かあった時にも対応できないし、円卓会議としてやるべきことはしなければならない。クラスティに押し付けようと考えたシロエだが後が怖いのでやめたようだ。

「ていうかクラスティさんも僕より少ないとはいえ結構な量あるのに何で普通に回ってるんだ…?」
「高山女史にストレス発散でもしてこいと追い出されるんだよ」
「ギルマスなのに追い出されるんで、す…か…?」

シロエがドアの方を向くと、クラスティが書類を持って壁に寄りかかっていた。おそらくシロエの承諾がいる書類なのだろうか、結構な量の書類だった。

「…もう書類見たくないです」
「シロエくんの承諾がいるものと相談案件と半々だよ」
「………」

もういっそのことクラスティさんここで仕事してくれないだろうか。その方が早く片付くし…うん、そうしよう。そうシロエが考えて言おうとした。

「…結構な量あるから手伝おうか?私の方は時間あるから」
「ぜひともお願いします」

即答で返事をしたシロエにクラスティは失笑し、部屋の椅子と机を借りてシロエと相談しながら書類を片付けていった。


***


「お、終わった…」
「やはり2人だと早く片付いて効率がいいね」

天秤祭関連の仕事は随時入ってくるため少しもたつくこともあったが、議長と参謀揃っているだけのことはあり、2時間ほどでほとんどの仕事が片付いた。

「ところでシロエくん、それはパーカーかい?」
「え、これですか?現実世界でも似たような服着てたので直継がくれたんですよ」
「なるほど…似合いますよ」
「…どうも」

ちょっと何かいつもよりクラスティさん変だなとシロエは思いつつ、決裁した書類を整理整頓していた。クラスティが薄ら笑ってシロエを見ていたなど、シロエは気が付かなかった。

「シロエくん」
「はい?…って顔近いですよクラスティさん!」
「………」
「クラスティさん?」

シロエをじっと見たまま動かないクラスティにシロエは怪訝そうに見ていた。ありきたりながら、顔に何か付いているのかと顔に手をやると。

「…シロエくん、無自覚もいい加減にした方が賢明ですよ」
「は?………んぅ!?」

シロエが早々とクラスティを退けていたらこうはならなかっただろう。誰もキスされるなんて思いもしないが、シロエが顔に手をやる仕草と目がクラスティから見ると少し上目遣いだったのがいけなかった。
頭を後ろにやろうとすると、クラスティがいつの間にか頭の後ろに手をやり逃げられない体勢だった。


「ごちそうさま」

そう不敵な笑みを浮かべて言ってシロエが呆然としている間にささっと決裁する書類を手に部屋から出ていった。



その後、天秤祭の警護に関しての会議の後に話があると言ってどういうことかと問い詰めたが、何故か最終的に付き合うことになってしまったシロエはまたもや呆然とクラスティを見るしかなかった。


End.