穏やかな日


「シロエくんは雪だるまを作ったことありますか?」
「…は?」

シロエは整理していた書類から顔を上げてクラスティを見た。
シロエは東京生まれの東京育ちだ。雪なんてそうそう積もらない地域だ。
そもそもクラスティの質問は唐突で何が聞きたいのか…。

「今、何が聞きたいのか分からないって思いましたね?」
「…人の心を読まないでください」

某お姫様もこんな気持ちを毎回感じているのだろうかとシロエは少し思った。
自分も結構そういうところはあると自覚しているが、クラスティほどひどくないはずだ。

「それで、いきなり何ですか?」
「暇つぶしです」
「………暇つぶし、ですか」

この人をどうにかして部屋から追い出したいと切実に思った。
というか、自分に何か用があって来たのではないのか。

「用は何なんですかね…」
「シロエくんで遊びたいだけですよ?」
「…僕"と"じゃなくて、僕"で"なんですね…」

もうやだこの人…。
そう思いつつ最初の質問に答える。

「小さい時に1度作ったことありますよ」
「ほぅ…。ちなみに大きいのですか?」
「いえ、あまり大きいのは作りませんでしたよ。邪魔になりますし」
「私も小さい頃は何度か作ったことありますが大きいのは作らなかったですね」
「……クラスティさんも作ったことあるんですね」
「君は私を何だと思っているんでしょうね?」
「あはは…」

普段のクラスティを見ている限り、雪だるまを作るような子どもではないように思えた。
次第に自分が作るよりも、妹の雪だるまを作る手伝いをするぐらいだったらしい。

「…しかし、見てみたかったですね」
「何をですか?」

作ったことあるだけで何を見たいのか。
ただ雪だるま作るだけだというのに。

「小さい頃の君に、ですよ」

クラスティはそういってシロエの側へ寄ってきた。

「君のリアルなことはあまり知らないのでね」
「そりゃあね…。まぁリアルで誰かに会ったことあるのは茶会のオフ会ぐらいですし」
「…もし現実世界に帰ることができたら、リアルで君に会いたい」

クラスティはそう言って、座っていたシロエを立たせ抱きしめた。

「…な、何を…」
「言ったでしょう。君が好きだと」

そう、ちょうど2週間前に同じ状況で告白されたのだ。
その時は、返事はいつでもいいと言っていたが…。

「…クラスティさんが好きかどうかは分かりませんが、少なくとも嫌いではないですよ」
「シロエくん、この後時間あるかい?」
「え、別に何もないので大丈夫ですけど…」
「一緒に食事食べに行きませんか?」
「…僕でよければ」

クラスティはいつもより少し穏やかな顔をして、書類整理が終わるのをシロエを見つめながら待つことにしたのだったー



End.