王の力はお前を孤独にする。
人の理から外れる。
全てを承知したとは言え(他に選択肢がなかったとしても)理解は出来ていなかっただろう。
それでも、己が孤独になろうと、世界に明日を授けたお前にチャンスと、一つだけ祝福を与えよう。
再びこの結末になるかもしれない。だが、ならないかもしれない。

「お前が愛した者に、偽りの記憶を授けられようともお前を愛した者に祝福を。」

人としての生が終った後には、己に付き合ってもらうが。
Cの世界と呼ばれる空間で、緑髪の魔女は一人目を閉じた。


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次の祭りは何をしよう。
エリア11にあるアッシュフォード学園理事長の孫であり、生徒会会長ミレイ・アッシュフォードは、生徒会室へと向うクラブハウスの廊下を歩きながら思案していた。教師陣営からは勉学の妨げになるとあまり良い顔はされないが、元々アッシュフォード学園は人種を分け隔てなく受け入れている事から言ってそこら辺にある学園とは(普通はナンバーズを受け入れようとはしないだろう)違って当然。己の意見が通って当然なのである。

「だって、此処はあの方達に少しでも楽しんで戴く為の箱庭なんだもの。」

秘されている二粒の至宝。
ミレイにとって大切で、大事で、愛しい皇子様と(比喩ではなく真実)その妹皇女様をお守りし、皇室から目を逸らす為の箱庭。偽りの生とは言え、楽しく過ごして欲しいではないか。

「やってるー?」

そんな事を思いながら辿り着いた生徒会室の中に、既に人の気配が幾つかある事に笑みを浮かべ、ミレイは大きな声を出しながら扉を開け放った。

「遅いですよ、会長!」
「何なんですか、この書類の山!!」
「御免御免、忘れてたんだわ。」

途端に口を尖らせるシャーリーや、泣きそうな声を上げるリヴァルに両手を合わせ、もう一人、この場にいた皇子様、ルルーシュを見た瞬間きょとんと目を瞬いた。
文句の一つや二つを言って来る彼が(手伝ってくれるが)何故か積極的に黙々と書類と格闘していて。

「どうしたの、ルルちゃん。」
「さあ?」
「何か一気に全部片付けるつもりらしいんですけど・・・。」

三人の声すら聞こえていない風情で書類に向うルルーシュを前に、シャーリーとリヴァルも首を傾げ。

「・・・ルルーシュ?」
「っ!」

近付いて肩を叩けば、体全身で驚愕した彼の見開かれた紫眼を間近に見て、ミレイは何か言い知れぬ予感に襲われた。
まるで、今やらなければもう出来ないような。
二度と戻って来ないから、やるべき事をやっておこうとしているような。

「な、何か?・・・・・あ、ちょっと用事が出来たんで。」
「ちょ、ルルーシュ!?」

あたふたと周囲を見回し、話す事は何もないと言わんばかりに席を立ち部屋を出て行ってしまったルルーシュ。
何だったんだろうと目を合わせ、首を傾げているシャーリーとリヴァルの声も聞えないほど、ミレイは想像した事が示す結果に目の前が真っ暗になった。
ルルーシュがそんな事をする理由なんて、一つしかない。
見付かってしまったのだ、皇室に。
又は、皇室の手が伸びて来ていて、この箱庭から外に出なければならなくなったのだ。
手にしていた(偽りとは言え)穏やかな日常と、己を置いて。
嫌。
置いていかれるのは嫌。
家なんてどうでも良い。
偽りでも(本質は変わらない)構わないから傍にいさせて。

「あ、会長!?」

シャーリーの声を背に、ミレイは生徒会室を飛び出したのだった。


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「ミレイ・アッシュフォード。」

ルルーシュの行く所なんて、学園内では限られている。
まずは同じクラブハウス内にある彼の自室へと走り出したミレイは、突然名を呼ばれ足を止めた。

「・・・貴女、は?」

視線の先には、女子生徒の制服を着た緑髪の少女が立っていて。

「お前は、ルルーシュを最後まで支えるか?王の力に蝕まれ、孤独になる魔王を支えるか?」

それは謎掛けのような問い。
ルルーシュの正体を知っているらしい少女に警戒を示したミレイだったが、問いの意味を考える前に本能的に頷いていた。

「イエス、よ。私は彼を支える。」

例え魔王となろうとも。

「良い覚悟だ。」

胸に手を当て言い切った答えに、少女の金の瞳が満足そうに細められ。

「!?」

次の瞬間、彼女の額から紅い鳥が飛び立った。


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“前回”のお陰で情報はある。
己の契約者、CCも事前に確保が出来、何をすべきか計画も立てた。
やらなければならない事は、直ぐ傍にいる義兄を殺す事でも騎士団を作る事でもない。
王を倒し、システム化される明日を壊す事。
その為には、手っ取り早く懐に入る方が良い。だが妹は、ナナリーは連れて行けないだろう。
後の事を託す為にも生徒会の溜まっている書類を片付けていたのだが、覚悟していたとは言えリヴァルやシャーリーの顔を見て、涙が出そうになった。今の彼らは知らないが、己はとてもとても酷い事をしてしまったのに受け入れてくれたシャーリーと、悪友であり続けようとしてくれたリヴァル。
あんな未来はもう来ない。来させないのだと決意を固め、書類を片付ける事に集中していたと言うのに突然肩を叩かれ、間近に立ったミレイに仮面が剥がれた。
箱庭の番人。
何時も何時も気にかけてくれて、楽しませてくれて(時に悪意すらも感じるイベントを考えてくれたりしたが)安心させてくれた彼女の無邪気な表情を再び見て。死を覚悟した時、もう二度と会わないのだと思っていたのに会えて。隠して来た思い、抑えなければならない(もう戻らない。修羅の道を引き返さない)愛情が溢れてきそうで咄嗟に生徒会室を飛び出して来たのだが、不味かったとルルーシュは首を振った。
怪しすぎる。
あれでは、何かあったと言っているような物だ。

「しかも課題を入れた鞄を置いてきちゃうし・・・。」

溜め息を零し、何でもないとの仮面を被って生徒会室に戻る事にしたルルーシュは。

「良かったな。」
「は?」

途中すれ違った(部屋にいろ!)CCに首を傾げながら生徒会室の扉を開け、何事もなかったようなミレイ、リヴァル、シャーリーの談笑している姿に安堵した。

「ルル!」
「忘れ物しちゃって。」

気付いたシャーリーに苦笑し、彼女達の傍に目的の鞄がある為歩み寄り。

「何の話をしていたんだ?」
「会長の知ってる御伽噺だよ。」

興味津々な二人に見詰められ語っているミレイの御伽噺を何気なく耳にしたルルーシュは、眉を寄せた。
何故ならば、話の内容は間違いようもなく。

「じゃあ、その皇子様は特殊な力で自分と妹を捨てた国を倒そうと皆の力を纏めたのに、結局はその力のせいで嫌われちゃったんですか?」
「ええ。で、最終的には平和な世界の為に自分を悪として正義の味方に倒されちゃうの。・・・悪を背負って、少しでも良い明日の為の道を用意して、ね。」

多少皇子様に都合の良いように解釈されているが。

「その皇子様の元になっているのが、この地に人質として送られて命を落としたブリタ二アの皇子様なんだけど。」
「あ、俺知ってる。悲劇の皇族って呼ばれてる・・・って、じゃあ倒される国ってブリタ二ア!?」
「まあ、仕方ないんじゃないかな。」

手を上げて答えたリヴァル。神妙な顔付きのシャーリー。そして、笑みを浮かべながらも目が笑っていないミレイに見詰められたルルーシュは、引き攣った笑い声を上げた。
偶然だ。偶然なんだと(それにしても何故彼女が悲劇の皇族を話題にするのやら)己に言い聞かせる。

「・・・まあ御伽噺、作られた話だからな。」

現実とは何ら関係ない。
肩を竦めるルルーシュに、ミレイは腕を組んで何度も頷いた。

「そうよ、御伽噺。どっかの馬鹿な皇子様が変な事を考えなければ現実にはならないし、路線変更して最小限の犠牲で済ませようと一人で乗り込まなければ色々な人も悲しまなくても済むわね。」
「・・・会長?」

ばれてる。
何を言っているのかわからず首を傾げるシャーリーに応じる事なく真っ直ぐに見詰められ、ルルーシュは冷や汗を流しながら一歩後退する。
どう言う事だ。
突発的出来事に弱く、ゼロレクイエムで悪逆皇帝として死んだと思ったのにクラブハウスの自室で目を覚ました時並に(時間まで戻ってるし。突然CCは現れるし)焦るルルーシュにミレイはにっこりと微笑んだ。

「と、言う事で現実にしない為にも皇室に戻ると考えておられるならばこのミレイ・アッシュフォードもお供させて下さい。ルルーシュ・ヴィ・ブリタ二ア殿下。」

無造作に開いた距離を詰めたかと思えば誓いのように手を取られ、口付けを落とされたルルーシュは呆然と目を見開く。
ちょっと待て。何だ、これは。

「何も気付かず、何も知らずに絶望を味わうのはもう御免です。・・・少しでも情を感じて下さっているのならば、どうか。」

固まったままのルルーシュに構わず、ミレイは言葉を重ねた。
愛情を、とまでは望まない。それでも、傍にいても良いと許しを。

「私には私の役割があるから、魔女は異能を授けてはくれませんでしたが・・・。」

お前はそのままあいつの傍にいてやれ、と。
“全て”を教えてくれた緑髪の少女。魔女。ルルーシュの契約者にして共犯者は、言ったから。

「・・・あの馬鹿。」

すれ違い様の言葉はこう言う意味だったのかと理解したルルーシュは、あいている方の手で前髪を掻き揚げた。恐らくも何も、CCは気持ちを見抜いた上でミレイを引き込んだのだろう。となると、此処でギアスを掛けても解かれる(あれは己にのみ有効なのかはわからないが)可能性が高いと言う事で。

「・・・危ないぞ?」
「殿下の傍にいられるならば構いません。」

溜め息を吐きながら問えば迷いのない瞳を向けられ、思わず苦笑が漏れた。
そんな事を言われてしまえば(“前回”は聞かなかったが)拒否する事など出来る訳がない。

「・・・じゃあ、一緒に行くか?ミレイ。」
「!・・・はい!!」

受け入れられ、ナナリーに向けるような笑顔を向けられたミレイは、ルルーシュに思わず抱き付いて。

「ほぇあ!?」

支えきれずに二人とも倒れ込んだ(押し倒しちゃった。役得)大きな音に我に返ったシャーリーとリヴァルは、訳がわからないながらもルルーシュが皇族である事と失恋を同時に悟ったそうな。