エリア11政庁。あてがわれた部屋。

「…………」

 渡された衣装を広げてみたルルーシュは、なんでこんなことになったんだと首を傾げてみた。
 久しぶりに直接見た皇族服は、やたらきらきらした飾りがついていて、少し重量もあるパーティ用のものだった。
 色が黒なのは誰の趣味だろうか。ここの総督のクロヴィス、ではなさそうだ。コーネリアも違う気がする。ならばシュナイゼルだろう、だが『皇族復帰の会見』なのに黒とはこれいかに。

 そのとき不用意にドアが開いた。ルルーシュはきょとんとしてそっちをふりむく。
 車椅子を押して、ユーフェミアが入ってきた。もちろん、車椅子は豪華なもので、座っているナナリーは皇族らしいドレスに身を包んでいる。

「あら? ルルーシュはまだ着替えていないの?」
「……ユフィ。ノックくらい、」
「ルルーシュ! 早く着てみてください」

 やれやれと嘆息してから、ルルーシュはナナリーの手に触れた。
 爪も綺麗に整えられている。ああ、いつもは俺の役目なのに。

「ドレスとてもよく似合ってるよ、ナナリー」
「ありがとうございますお兄様」
「ほら、ルルーシュも早く着替えましょうよ」

 きらきらした瞳で期待しているユーフェミア。ルルーシュはちょっと意地悪な気持ちになる。

「なんだユフィ、七年も会っていないうちに、覗きの趣味でもできたのか?」
「!? ひどいです!」
「お兄様は照れているんですよ、ユフィ姉様が立派なレディになっていらっしゃるから」
「あら、そうなの? ルルーシュ」

 すっと詰め寄られて上目遣いにみつめられ、ルルーシュは気恥ずかしくなる。

「やめろユフィ、着替えられないだろう」
「ルルーシュ、相変わらずかわいいのね」
「なんだそれは……」

 ルルーシュは憮然とした。
 男に向かって『かわいい』はないだろう、褒めてない!

「おや? まだ着替えていないのかい、ルルーシュ」

 わざとらしいロイヤルスマイルを浮かべて、シュナイゼルが入ってくる。
 クロヴィスとコーネリアの姿は見えないが、おそらく手配に奔走しているのだろうと思われる。

「そうなんですシュナイゼルお兄様! ルルーシュったら、恥ずかしがってしまって」
「お前たちがいるからだろう!」

 はははと笑うシュナイゼル。

「兄弟じゃないか、ルルーシュ? 恥ずかしがらなくても」
「は!? おかしいですよその理屈は! 兄弟なら裸を見せても見られてもいいと?」
「ならルルーシュはナナリーを着替えさせたりお風呂にいれたりしてないのかい?」
「してますよ?」

 言ってから後悔してもあとのまつり。 
 ナナリーが「じゃあいいですよね?」と不思議そうに言った。それを見て、ユーフェミアは「ナナリーはピュアに育ったのね」とつぶやく。
 ルルーシュは頭が痛くなった。



 いよいよ会見が始まる。
 勢いで押し切られて皇族に復帰することになって、ナナリーを呼んで、ミレイたちに連絡する暇もなかったが、後のフォローが大変かもしれない。
 願わくば、シャーリーたちが引いてくれないことを。

「どうしたルルーシュ、緊張しているのか?」
「いえ。学校で副会長をやっていましたし、人前に出ることは別に……。ただナナリーと離れ離れにならないかは、やはり不安ですね」

 念押しするように、懸念事項を告げておく。
 コーネリアはやさしく微笑み、ルルーシュの髪の乱れを正した。

「大丈夫だ、そこは私が保証しよう。宰相のシュナイゼル兄上まで味方なんだ、心配することはない」
「ありがとうございます」
「ルルーシュ、生中継までカウントが始まるよ。席に……」
「はい。……皇族としての振る舞いは、完璧にやってみせますよ?」

 実はよからぬことをひとつ考えているのだけれど、それを悟られないように綺麗に微笑みつつ、ルルーシュはカウントを静かに聞いた。



 買い物に出たスザクは、突然街中のテレビで始まった『緊急会見』を見るために、足を止めた。
 当然、周囲の人々も同じように立ち止まり、ビルにとりつけられた巨大なテレビスクリーンを見上げる。
 やがて、スザクは仰天することとなる。

「……る、ルルーシュにナナリー……!?」

 生きていたのか。そして見つかったのか。
 うれしさがこみあげる一方、皇族に復帰したなら遠い人になってしまったというさみしさがあった。
 だが、スザクは、ルルーシュの声を聞いたのだ。

『騎士を――私と妹を守ってくれる、騎士を、募集します』

 妹を、ナナリーを大切にしていた彼らしい科白だった。

『人種は、問いません。たとえブリタニア人でなくとも。私は人柄と、能力を重視します』

 その発言は予定になかったらしく、隣にいたクロヴィスの驚いた顔が映る。

『……私は信頼できる騎士が来るのを、待っています』

 くい、とルルーシュは襟元をもちあげるようなしぐさをした。スザクは目を見開く。

 ――それは、ふたりだけの、ないしょの。

 こうしてはいられない。スザクは全力で駆け出した。彼らのいる政庁に向かって、躊躇いなく。



 パニックになってしまっていたアッシュフォード学園だったが、会見直後ルルーシュから電話を受けたミレイが校内放送をかけて、一応は落ち着きを取り戻していた。
 ミレイの放送内容は、主に説明だった。ランペルージ兄妹は本当に皇族だったこと、そしてみんなをだましていたのは不本意だったこと。

「――もし二人がまた学園に来てくれたときは、いつもどおりの態度をとってあげましょう」

 そう言ったミレイの言葉で、生徒たちはそうすることを決めた。 
 兄妹がそれを望んでいることを、ミレイの言葉から感じることができたから。