「俺の初恋は、花の咲く春の頃、誰よりも輝いて見えた、ブロンドの髪が風に揺れて・・・。」

 今現在、生徒会室は恋話(こいばな)で盛り上がっていた。
 リヴァルの告白紛いの話の振り方に、生徒会メンバーは皆苦笑をうかべた。リヴァルの恋心は周知の事実で、気付かないのは想われている当人、ミレイだけという、まったくもって、報われない恋なのだ。

「そ、そうだ!・・・か、会長の初恋って、いつなんですか?」

 リヴァルが陶酔している間に、ミレイに話させてしまおうと思いついたらしいシャーリーが話を振ると、本人は目を一瞬丸くして、そのあと、懐かしむ様な、穏やかな笑みをうかべた。

「・・・そうねぇ。初恋って言うのかどうかはわからないけど・・・ほら、こう見えても、うちって、昔は爵位をもった貴族だったワケよ。つまり、貴族の結婚相手、つまり、婚約者は、貴族っていうか・・・うちの場合は、皇族だったんだけど、初めて会った時、すっごく綺麗だな~って思ったわねぇ。」

 ミレイの言葉に、全員がギョッとした。皇族の婚約者だったとは、思いもよらなかったのだ。

「だった・・・てことは、今は・・・違うんですか?」

 カレンが問うと、ミレイは苦笑をうかべた。

「ん~・・・その皇子様はね・・・いなくなってしまったから。」
「いなく・・・なった?」
「そ。・・・いろいろあるのよ、皇族もね。・・・ま、うちも爵位を返上しちゃったしねぇ。」

 肩を竦めたミレイに、その場がしん、となる。

「・・・・・・あ、えっと、じゃ、ルルの初恋は?」

 慌てて話を変えようとしたシャーリーは、ルルーシュに話を振る。すると、ルルーシュは困惑したように首を傾げた。

「・・・初恋は・・・異母妹、かな・・・。」
「「「「えっ!?」」」」

 完全に初耳だった。ルルーシュの妹はナナリーだけと思っていたのに、他にもいたのかとその場にいた生徒会メンバー(スザクは軍務でいない)は目を見開いて驚いた。
ミレイが皇族の婚約者というのは、貴族である以上あり得ない話でもないが、ルルーシュに異母妹がいるなんていうのは、全く考えもしなかったのだからしょうがない。

「・・・あ。」

 ルルーシュがしまったといった表情をうかべるので、完全にルルーシュの失言であったことがうかがえる。

「・・・る、ルル-シュ・・・異母妹って・・・やっぱり、シスコンなんだな・・・。」

 リヴァルがそう言えば、ルルーシュはムッとした表情をうかべた。

「うるさい。・・・母親の違う兄弟達とは、住む場所も違うし、兄弟っていう感覚が薄いんだよ。」
「・・・兄弟、達?複数?」

 またも口を滑らせたルルーシュに、ニーナが目を丸くした。

「たくさん異母兄弟がいるのね・・・まるで、皇族みたい。」

 その瞬間、ルルーシュがびしり、と固まる。完全に図星をつかれたようなそれに、リヴァル達も固まった。

「・・・えっ。」
「な、なに、えっ・・・えぇっ?」

 全員が混乱中である。そんな中、1人冷静だったミレイが、フッと溜め息をついた。

「ルルちゃんってば、失言~。」

 にこぉっと笑って、ぷに、と頬をつついた。

「そういうところ、昔から変わらないわ・・・。普段はとっても慎重で、警戒心の塊なのに、ちょっとしたきっかけで、ボロが出ちゃうところ♪・・・よく、シュナイゼル殿下とかに、からかわれてたわよねぇ?」

「み、ミレイ!!」
「あら、久しぶり、そんな風に呼ばれるの。」

 クツクツと笑うミレイに、ルルーシュはバッと口を塞いだ。

「無理無理。無理よぅ、ルルちゃん。・・・みんな、しっかり聞いちゃってるもの~。」
「・・・ミレイちゃん、もしかして、ミレイちゃんの婚約者の皇子様って・・・副会長?」

 ニーナの確認に、ルルーシュはギョッとし、ミレイは苦笑いをしながら頷いた。

「そ。・・・良くわかったわね~。」
「・・・だって、副会長くらいの年齢の皇族なら、もう、表舞台に出ててもおかしくないもの。・・・さっき、ミレイちゃんは、その皇子様はいなくなったって言ったでしょう?だから、そうなのかなって・・・。」

 そう、ユーフェミアのように、ある程度の年齢にいった皇族はすべからく表舞台で様々な役職につくのが慣例だ。
 身分を隠して学校を通うにしたって、ルルーシュのようにクラブハウスに住むなんて、あり得ないのだ。

「・・・完全に俺の失言だ。」

 はぁ、と溜め息をついたのはルルーシュだった。

「だが、ミレイも悪いんだぞ、昔の話なんてするから・・・。」
「うふふ~。だって、初恋っぽいなぁって思うのは、あの時なんだもの~。正直に答えるのはとーぜんでしょ?」

 2人のやり取りに、呆然としていたリヴァルがガタンとイスを蹴倒す。

「・・・る、ルルーシュが皇子って・・・スザクは知ってんのか?」
「ああ。知ってるぞ。・・・ブリタニアの名を名乗っている時に、スザクの家に世話になっていたからな。」

 あっさりと答えるルルーシュに、今度はカレンが困惑顔で訊ねる。

「ねぇ・・・どうして、こんな処でこんな風に暮らしているの?だって、皇子様、なんでしょう?」

 その視線は、とてもキツイもので。それに気づいたミレイが心配そうにルルーシュを見る。

「・・・皇族にもいろいろあるって、ミレイが言ったろう?」
「その・・・いろいろって?」

 リヴァルが訊ねる。すると、ルルーシュは一瞬眉を顰めて、それから、フッと溜め息をつく。

「母が殺されたんだ。・・・テロリストに、な。」

 視線を落とし答えたルルーシュに、気まずそうに皆が黙り込む。

「表向きは、でしょ?」
「ミレイ。」
「あら、正直に話しちゃった方が良いんじゃない?その方が、皆も協力してくれそうだし♪」

 そう言ったミレイに、それもそうか、とルルーシュは呟く。

「・・・表向きってどういうコト?」
「・・・カレンさんも貴族の娘ならわかるだろう?・・・どの世界だって、足の引っ張り合いはあるんだよ。皇族にもなれば、もっと卑劣になる。」
「・・・それって・・・。」

 サッと顔を青褪めさせたのは、ニーナだった。皇族の黒い歴史を、祖父から聞かされたことがあったからだった。

「・・・ああ。皇位継承権争い・・・そんなことの為に、母さんは殺された。ナナリーの目が見えなくなり、足も不自由になったのはその時の後遺症だ。・・・俺もナナリーも帝位なんて望んでなかったのに。・・・だから、俺は、あいつに言ったんだ。皇位継承権などいらないって・・・そして、俺は・・・。」

 ギュッと握りしめた両手を見つめ、憎々しげにルルーシュは呟く。

「己の生を否定されて愚かだと罵られ・・・ナナリーと共に日本に人質として送られて・・・そして、ブリタニアは俺達が日本にいるのを承知で開戦した・・・。俺達は国に捨てられたんだ。」

 しん、とする生徒会室。呆然とするリヴァル、シャーリーは涙ぐみ、ニーナは俯いた。そして、カレンも眉を顰めた。その様子を見て、ミレイはクス、と笑う。

「ま、ただやられっぱなしッていうのは、ルルちゃんの性格じゃありえないっていうのは、皆、わかるわよね?」

 ガラッと湿っぽい空気を変えたミレイの一言に、ルルーシュは肩を竦め、くつりと笑った。

「そこまでバラすのか?」
「うふ。だって、スザク君いないし、良いじゃない。」
「・・・スザク君がいないことが、何か関係があるんですか?」

 カレンが訝しげに問うと、ミレイはにっこりと笑って、あっさりと答えた。

「うん。だって、ルルちゃん、今、お父様であるシャルル陛下に目下反逆中だもの。」

― 軽く言うことじゃないと思う。

 とは、ルルーシュとミレイを除く、その場の全員の思いで・・・。

「・・・って、まさか!?」

 一番最初に気づいたのは、やはりというかカレンだった。フルフルと震える手で、ルルーシュを指差す。

「まさか、まさか、まさかッ・・・。」
「カレン?」

 シャーリーが心配して名を呼ぶが、カレンの視線はルルーシュに向けられっぱなしだ。

「・・・カレン。これが、俺の理由だよ。・・・そして、こういった事情だから、素性を伏せざるを得ない。」

 フッと笑んだルルーシュに、カレンはぐっと詰まり、そして、病弱設定を捨て去って、立ち上がった。

「アンタッ!・・・ばっかじゃないの!!何で言わないの!?そういうことなら、皆、喜んで協力するに決まってるじゃない!!」
「カレン、良いの?病弱設定捨てちゃって。」

 クスクスと笑いながらミレイが確認するが、カレンはその勢いを崩さなかった。

「良いんです!どうせ、私が病弱じゃないのくらい、この場の皆が気付いてることでしょう?・・・そんなことよりも、会長も知ってたんですか!?こいつが・・・ルルーシュがゼロだってこと!!」
「「「えええっっルルーシュ(ルル/副会長)がゼロぉぉお!?」」」
「もっちろん。・・・婚約者ですから♪」
「ま、マジで!?マジで、ルルーシュがゼロ!?」

 軽い調子でミレイが頷くと、リヴァルがルルーシュに確認の視線を送る。

「ああ。・・・黙っていてすまない。・・・だが、俺はブリタニアを許せない。この上もない程に憎んでいる。」
「ゼロ・・・ルルが、ゼロ・・・。」
「副会長が・・・そんな・・・。」

 それぞれに反応を示す生徒会メンバーを見回し、ミレイは言う。

「皆、これはここだけの秘密よ?・・・他の生徒はもちろんスザク君にも黙ってなきゃダメよ??」

 明るく言ってはいるが、とてつもない威圧を感じさせるその言葉に、皆がコクコクと慌てて首を縦に振る。

「うん。よろしい。」

 満足げに笑むミレイに、ルルーシュは苦笑する。

「ミレイ・・・、すまない。」
「良いんですよぅ、殿下v・・・私と殿下の仲でしょv」
「そう、だな。」

 ミレイに向かって、フッと柔らかな笑みをうかべたルルーシュ。それを見て、シャーリーが立ち上がる。

「ルルッ!・・・私も何か手伝うことがあったら言ってね!?何でも手伝うから!!」
「お、俺も!!・・・ルルーシュ!俺達、悪友だもんな!?」
「・・・私も・・・何か、手伝えること、あるかな・・・?」

 シャーリーに続いて、リヴァルとニーナも口を開く。

「・・・皆・・・ありがとう。」

 ルルーシュが笑顔で礼を言う。

「私は今まで通り変わらずにするつもりよ。」

 だが、1人その笑顔から視線をそらし、険しい表情をうかべていたカレンが、そう、呟いた。

「カレン!?」

 シャーリーが責めるような視線を送るが、ルルーシュが穏やかに微笑み、それを制した。

「良いんだ、シャーリー。・・・カレン、君の働きには感謝している。これまで通り頼む。」
「わかりました。黒の騎士団零番隊隊長、紅月カレン。必ずや貴方に勝利を捧げます・・・ゼロ。」
「えぇっ!?・・・カレンさんが黒の騎士団!?」
「ほ、ホントに!?」

 皆がカレンのカミングアウトにギョッとする中、ミレイがコロコロと笑った。

「騎士団の方は、カレンに任せておけば大丈夫そうねぇ?」
「はい。会長・・・ゼロは、私が守りますから・・・安心して下さい。」
「ありがとう。・・・生徒会メンバーが貴方達で本当に良かったわ。・・・ね?ルルちゃん?」

 ミレイに話を振られ、ルルーシュは満面の笑みを見せた。

「ああ・・・本当に・・・君達に出会えたことに感謝する。」

 その笑顔にノックアウトされた生徒会メンバーが、黒の騎士団にやってくるのも、時間の問題かもしれない・・・。