眠り


昔―

「…うっ…ふえ…ん…」
「大丈夫、恵?」
「…ぅん…ずず……お従兄ちゃぁん…」
「…ほら、手出して」

僕が4歳の時、両親が出張や泊りがけの仕事が重なり、1週間ほど従兄弟の家族の所に預けられたことがある。
その時だ、従兄さんに初めて会ったのは。

知らない人がいる中で最初は泣きっぱなしだった。泣きっぱなしで扱いに困ってるのは分かっていた。でも、両親もいない中で不安だったのだ。

「何で泣いてるの?」
「…ぅ…ん…うっ…」
「本読む?」
「…ふえ?」
「仕方ないから読んであげるよ」
「………」

泣きながらも首を縦に振って、従兄さんの服の裾を握ったことを今でも覚えている。
そのことがあってから従兄さんに懐いていった。今思うと従兄さんの後ろをついて回って迷惑だったのではないかと思う。
1週間後、両親が迎えに来た時は泣きまくった。従兄さんがまた会えるからと言って別れたが。

それからというもの、よく従兄さんの所に遊びに行くようになり、産まれたばかりの従妹と遊んだりもした。
従兄さんが高校、大学と行くにつれて昔のように遊びに行くことは減ったが、それでも遊びに行ったり遊びに来てくれることもあった。

確かに、関係を持つ前から従兄の事は好きだった。ただ伝えることも考えすらしなかったし、そのまま気持ちは昇華するだろうとある意味淡白なことを思っていた。
だから関係を持っても大丈夫と、ずるずると続けていったのだろうか。今となってはあまり関係ない気がするが。だって、従兄さんを見てたら僕を逃がすつもりはないみたいだし。
このまま恋人同士でいいと思うぐらいには従兄さんのことは今でも好きだ。

「恵?何か考え事かい?」
「…今は"シロエ"です」
「いいじゃないか。シロエでも恵でも」
「クラスティさん…」

扱いが時々面倒な従兄さんではあるが、これはこれで甘えてるんだと思うことにした。
いや、扱いはいつも面倒だ。言わないけど。

「…僕にかまってないで仕事してくださいよ」
「おや、しているじゃないか」
「………僕を膝にのせて?」

今、僕は従兄さんの膝の上に座っている。これを誰かに見られたら…。
あれから僕と従兄さんの関係は誰にもバレてはいない、と思う。ただ、最近従兄さんといることが多いせいか、ちょっと怪しまれてる感じがしないでもない。

「…ここよく日が当たりますね…」
「ああ、よく眠たくなるよ」
「そうですねー…」
「…寝るかい?少しは休憩してもいいだろう」
「…うー…」

従兄さんと会話しているとどんどん瞼が落ちていき、いつの間にか僕は寝てしまった。
だから、その後のことも分からなかった。



***



「ごめんな~、書類間違ってもうて…」
「いえ、ミロードに見てもらえばおそらくそのままで大丈夫だと思います」
「やっぱりうちデスクワーク苦手やわ~…」

「…ミロード、マリエールさんがいらっしゃっていますが」
『……………』
「あれ、シロ坊もいるんやろ?」
「ええ…。ミロード?開けますよ?」

ドアを開けた先で三佐とマリエールが見たものは―

「…これどういうことなんやろか…」
「…ミロードの膝の上に何故シロエ様が…?」

シロエが寝た後、クラスティはシロエを起こさないように書類を採決してそのまま一緒に寝たのだ。


2人はしばらく黙ったまま、寝ているシロエとクラスティを見ていた―