それは、一本の電話から始まった。

アッシュフォード学園生徒会室には、放課後の現在、生徒会メンバー全員が集まっていた。
最近さぼり気味のルルーシュとリヴァルや、珍しく軍のなかったスザクなどのメンバーも揃っており、この機会を逃すべからず的な勢いで溜まっていた書類を捌いていた。
そんな中、かかってきた一本の電話。どうやら、ミレイの婚約者かららしい。
楽しそうに話すミレイに、リヴァルがハンカチを食い破るぐらいの勢いで、見えない電話の相手を睨みつけていた。

「ぐぎぎぎぎ……」
「……おいリヴァル、睨んでばかりいないで手を動かせ」
「ぐぎぎぎぎぎ……」
「無理だよ。聞いてないみたいだ、リヴァル」

はあっとため息をつくルルーシュと苦笑するスザク。
ミレイに絶賛片想い中のリヴァルにしてみれば、確かに憎い相手ではあるだろう。他のメンバーも、仕方がないと言った様子で苦笑していた。

「それにしても、会長なんか楽しそうに話してるよね」
「本当、政略結婚の相手なのに」
「何か、ミレイちゃんと波長が合う人、みたいだよ」
「……………そんな恐ろしい人がいるのか…」

睨みつけるのに忙しいリヴァル以外の脳裏に、いつものはちゃめちゃなミレイの様子が浮かぶ。そんなミレイと波長の合う人物……。そんな恐ろしい二人が結婚したならば、一体全体どうなることか…。
いつも何故か(物質的精神的共に)被害を被っているルルーシュはその想像に顔を歪めた。

「……ま、まあ。俺としては会長が幸せならそれで良いんだけどな」
「うん、そうだね」
「ぐぎぎぎ……しあわせ………?」

今まで会話に入ってこなかったリヴァルが反応した。そのままルルーシュに詰め寄る。

「しあわせ、幸せか!? 政略結婚なんだぜ!! きっと親に無理矢理お見合いさせられて有無も言えずに家のために我慢して嫁ぐのにそこに幸せがあるだろうかいやない!! きっと会長は誰かに、いや俺に奪ってほしいと思って…!!!!」
「はいはい。言ってろ」

少し正気を失いかけていると思われるリヴァルを、ルルーシュは軽く流す。そんなつれないルルーシュに、リヴァルは俺達悪友だろーっと言いながら絡んでいた。…この馬鹿は酒でも飲んだのか、全く。
リヴァルに絡まれているルルーシュを見ながら、他のメンバーは苦笑した。

「…でも、会長そんなに嫌がってる感じじゃないよね」
「そうなんだよね。今電話してるのもすっごく楽しそうだし」
「我慢とか、してなさそうね」
「ミレイちゃん、嫌ならはっきりそう言うから」

と、言うことはやはりリヴァルにチャンスはない、と言うことなのだろう。スザクはリヴァルの肩をぽんっと叩いた。
一方ルルーシュはミレイの婚約者について考えていた。ミレイとは意外に長い付き合いではあるが、今までのお見合いは全て断ってきたはずだ。いくら、そろそろ本気で決めなくてはならないとは言え、ここまでミレイが親密に話せる相手だと、もともと知り合いだった可能性が高い。だとすると、一体誰だろう? 今ルルーシュはすでに皇位を返上しているとは言え、昔、皇室にいた時代では婚約者だったミレイだ。彼女には幸せになってもらいたい。
ちらっと楽しそうに話すミレイを見る。今はもう関係ないとは言え、元は婚約者であったのだから、少しぐらい相手のことを話してくれてもいいのに。
そのミレイはと言うと、受話器を持ちながら、少し眼を見開いていた。

「…え、今からですか? ええ、まあたぶん大丈夫だとは思いますけど……ええ、まだ話してないんです」

ミレイの様子に、生徒会メンバーは首を傾げる。どうしたのだろう?

「ええ、わかりました。じゃあお待ちしてますね」
「『お待ちってほど待たせはしないよぉ』」

受話器からの声が、重なって聞こえる。と、思った瞬間、生徒会室の扉が開いた。そこに立っていたのは白衣を着た眼鏡の男。手には携帯電話を持っている。眼鏡の奥の瞳がにっこりと笑った。

「ロイドさん! 外にいたんですか?」
「ろ、ロイドさん!?」
「ロイドっ!!??」

3つの声が上がる。ひとつは受話器を置いたミレイ。次がいきなりの上司の登場に驚くスザク。そして最後が…。
ロイドがにっこりと笑った。

「あっはぁ、お久しぶりですねぇルルーシュ様☆」

にこにこと手を振るロイドに、ルルーシュは混乱した。なぜロイドがここに?
ロイドとは、皇室にいた頃からの知り合いだ。ルルーシュの住んでいたアリエスの離宮によくやってくる2番目の兄に付いてお茶を飲みにやってきていたのがロイドだ。
ルルーシュとロイドを見比べながら、シャーリーがおずおずと問いかけた。

「ルル、知り合いなの?」
「し、知り合いと言うか……会長、なんでロイドが」
「だって私の婚約者だもの」

混乱しているルルーシュに、ミレイはあっけらかんとした様子で言い放つ。

「こんやくしゃ……って、ロイドが!!?」
「そーうなんですよぉ! この度、ミレイ君と婚約したんですよ~。なのでよろしくお願いしますねぇルルーシュ様!!」
「…ミレイ!! わかっているのか、ロイドだぞロイド!! あの、性格破綻者でKMFオタクで、あの兄上にロイドは妖精か何かなんじゃないかいって言われたあのロイドだぞ!!??」
「あっはぁーそこまで言われるとなんか照れちゃいますねぇ」
「皇位を返上して婚約者じゃなくなった俺が言うのもどうかと思うが良いのかこんな奴が婚約者で!!?? しかもこいつもうすぐ三十路だっただろうが!!??」
「いやんルルちゃんったら、私の心配してくれてるの? ミレイ感激ー☆」
「茶化すな!! 良いか、結婚と言うのは一生の問題なんだぞ!? それをいくらこいつが伯爵の地位にいるからってこんな…こんな(強調)奴の元に嫁がなくてもお前なら誰だっているだろう!? アッシュフォードなんだから皇族だっているだろう!? シュナイゼル兄上は性格が悪いから薦められないがクロヴィス兄上あたりならきっと幸せにしてくれるぞこんなロイドより!!!!」
「ルルーシュ様、なんだか娘を嫁にやる父親みたいになってますよー。…それに、良いんですか? そこまで言っちゃって」
「は? 何がだ?」

苦笑しながら指をさすロイド。その指の先を見て、ルルーシュの顔から血の気が抜けた。
あまりのことに忘れ去ってしまっていたが、ここは生徒会室。そして、当然のことながら、生徒会メンバーが揃っていたのだった。
くらりっと現実から逃避したいと本気で思っているルルーシュを、ぽかんっとした表情のメンバーが見ていた。

「………え、こ、皇位……って……」
「宰相、のシュナイゼル殿下、を兄上って……」
「る、ルルーシュ君…って」
「いや、その、そのだな…」
「…会長と婚約してたってどう言うことだーっっ!!!! あと呼び捨て――っっっ!!!!」
「って、お前はそれか!!!!」

まだ事態を把握しきれていないメンバーよりも早く覚醒したらしいリヴァルは、とりあえず一番気になったところを突っ込んでおくことにしたらしい。再び詰め寄ってくるリヴァルに対して、ルルーシュはとりあえず殴っておいた。


とりあえず、落ち着いたところで一応説明をした。
継承争いに巻き込まれたくなかったから、皇位を返上したと言うこと。当時は後見人だったアッシュフォードの令嬢ミレイと婚約関係にあったと言うこと。今でも父や親しい異母兄弟姉妹とは連絡を取っているが、基本は母と妹と暮らしていると言うことなどなど。
最初はぽかーんっと聞いていたメンバーだったが、適応力が良いのかすぐに理解した。

「…で、会長とはもう婚約を解消してるのね?」
「ああ。……しかし、しかしだ!! ロイドと結婚してまともな結婚生活ができるとは思えん!! そう思うだろスザク!!」
「あ、はははは……ノーコメントで良い?」

さすがに上司の手前、素直に頷くことができずに、スザクは曖昧な笑みを浮かべた。
その横ではリヴァルが血涙でも出そうな勢いで唇を噛んでいる。
そんな彼らの様子を見ていたミレイはにっこりと笑った。

「ルルちゃんが思ってるほど、ロイドさんは悪い人じゃないわよ」
「悪い人とかそう言うんじゃなくて、苦労するって言ってるんです」
「んー……でも、共通の趣味もあることだし」
「……共通の趣味?」
「KMF…ガニメデのこと? ミレイちゃん。…あ、でも趣味って訳じゃないよね」

首を傾げるメンバー。そんな彼らに、ミレイはにやっと笑った。その笑みを見て、ルルーシュはなにやら不吉な予感を感じる。

「うふふふふ……私とロイドさんの共通の趣味ってのはねぇ……」
「ずばり! ルルーシュ様だよぉ~」
「…は? 俺?」
「ざっつらぁ~いと!!」

そう言うと、ロイドはどこからともなく1冊のアルバムを取り出した。その中身とは…。

「何だこれはっっっ!!!??」
「…きゃーっっルル可愛いっっ!!!!」
「うわ、ほんと……小さい頃は可愛かったのね……」
「こっちの冊子には僕とミレイ君が選りすぐった写真が入ってるよぉ~」
「ふふふーこっちは女装・コスプレとかの色物特集よー☆」
「ミレイ、ロイド!! 一体どう言うことだ!?」

顔を真っ赤にして問い詰めるルルーシュに対し、ミレイもロイドも涼しい表情だ。

「どう言うって…僕達2人とも、ルルーシュ様のことがだぁいすきってことですよぉ」
「はぁ!?」
「お見合いの時にね、お互いにアリエスの離宮で会ってたこと思い出して、そこからルルちゃんの話になったのよ」
「それでぇ、その場で意気投合しちゃったって訳なんですよぉ」
「私もロイドさんも、ルルちゃんのこと大好きなんだから、もうこの際結婚しちゃって、2人でルルちゃんとかナナちゃんとかマリアンヌ様を守っていけば良いんじゃない? って思って婚約成立―☆」
「お互いにKMF関係で勢力伸ばしてるアッシュフォードとアスプルンドだからねぇ~。まとまっちゃってむしろ丁度良いんじゃないかなぁって」

ねーっと笑い合う2人に、ルルーシュは頭を抱えた。

「だ、だからと言って、結婚なんて言う人生の最大とも言える問題を……」
「いやぁ、僕きっとこの機会を逃したら一生結婚しませんよぉ~僕の主君はルルーシュ様で、恋人はランスロットで、フィアンセがミレイ君! 良い感じじゃないですかぁ~。僕としては完璧ですけど」
「私も、何を考えているのか分からないお貴族様より、多少なりとも知ってるロイドさんの方が良いわ。幸い、お母様も納得してくださったし」
「……………………」

最早何を言っても無駄だ。ルルーシュは深くため息を吐く。そんなルルーシュの肩をぽんっと叩くカレン。

「良いじゃないの。それだけ2人に愛されてるってことでしょう?」
「それはそうなんだがしかしつまりあれなのか? この2人がタッグを組むと言うことはやっぱり俺が一番被害を受けるんじゃないのか?? ミレイだけでも大概だって言うのにも関わらず、そこにロイドまで加わるのか……??」
「……………あ~……えっと、ご愁傷様?」
「良いじゃんかルルーシュっっ!! それだけ会長に想われてるってことだろう!? ちくしょーっっっ!!!! あと呼び捨て――っっ!!!!」
「り、リヴァル大丈夫…??」
「ううう……っ!! ルルーシュの母ちゃんでべそーっっ!!!! ちくしょーっっ!!!! ヤケ酒だ――っっ!!!!」
「ば、馬鹿!! 俺に対する悪口ならば良いが母上に対して悪口を言うな!! 殺されるぞ!!」
「……問題はそこなの?」

自暴自棄になっているリヴァルを、スザクとカレンが何とか止めて、シャーリーとニーナが宥めている。ルルーシュは再び溜息をついた。そしてロイドを睨みつける。

「……良いか、ロイド。これだけは言っておくが、ミレイを泣かせた場合、お前の命はないと思え」
「あっはぁ!! ルルーシュ様ったらミレイ君のお父様みたいですねぇ~」
「ミレイには、幸せになってもらいたいからな。…………まあ、多少だが、お前も、な」

むすっと唇を尖らせながら言うルルーシュに、ロイドはたまらなくなって抱き付いた。

「ほぉわああぁぁ!!??」
「あーもぅ! やっぱりルルーシュ様は可愛いですねぇ」
「あーずっるいですよロイドさん!! 私もーってい!!」
「ギャ―――っっ!!!! かかかかかいちょ―――うっっ!!!! ……ぐはっっ」
「あ、死んだ」
「リヴァルしっかりー」

ロイドとミレイに抱き締められて、苦しそうなルルーシュ。そして、そんな状況を見てしまったリヴァルは、早々に意識を手放した。現実から逃避しても、結果は変わらないのに…。と生徒会メンバーは思ったが、何も言わずに気絶させておくことにした。


ルールちゃん まだ納得してないの?
…そう言う訳じゃない ただ、俺のことは気にせずに本当に好きな相手と結婚した方が…
それはちょぉーっと無理な相談ね
??? 何故だ??
私も、ロイドさんも、2人とも本当に好きな相手が一緒だからよ
そうなのか?? 一体どこのどいつだ?? 応援するぞ
……………うーん、ルルちゃんってやっぱりこう言うことに関して鈍感ねぇ
は???
ま、そう言うところが可愛いんだけど!!