「あーもー!!」

生徒会室に入って来るなりストレス発散の為の獲物を今から捕まえる、と言わんばかりのアッシュフォード学園生徒会長ミレイ・アッシュフォードの叫びに運悪く居合わせてしまったルルーシュ、リヴァル、ニーナ、シャーリーの四名はこの場を上手く切り抜ける為、瞬時に哀れな子羊を選出した。

「「「リヴァル。」」」
「うぇ、俺!?」

三人から口を揃えて指名されたリヴァルは素っ頓狂な声を上げるが、愛しの(伝わっているはずなのに受け流されているが)ミレイの為ならいざとなれば一肌でも二肌でも脱ぐ覚悟がある事は、少なくとも此処に居るメンバーには知られている事。行って来いとルルーシュに背中を押され、何をされるか恐怖と興味が合わさり、結局リヴァルは愛する(一方通行だが)女性へと近付いて。

「か、会長?どうかしたんすか?」

問われたミレイは椅子に腰を下ろし、良くぞ聞いてくれたと足を組んだ。

「一昨日も昨日も今日も見合いなんてやってらんないわ!」
「・・・・・・へ?」
「ミレイちゃん、今日もだったんだ。」

きょとんと目を瞬くリヴァルとは違い、前二日を知っていたらしいニーナは三日連続と言う見合いに驚きつつも真面目に生徒会の書類に手を伸ばす。

「三日間って、もしかしなくとも三日とも違う人ですか?」
「そうよ!・・・まったく、あの両親は何人用意しているんだか。」

見合いの意味を漸く理解し、ショックを受け部屋の隅で落ち込むリヴァルを宥めるルルーシュ。
男二人のやり取りに気付かずシャーリーが手を上げれば、ミレイはうんざりと肩を落とした。

「そりゃ、家柄も容姿もそれなりを用意してはくれてるけど。」

没落したと言っても名門貴族だったアッシュフォードだ。
家の再興を望む両親は(私も祖父も再興なんてどうでも良いの)変な者を見つけては来ないが、それとこれとは話が別。
何時か断れない時が来るだろうがそれまでは断り続ける。
そんな決意を高らかに宣言するミレイにもう一度シャーリーが手を上げた。

「会長の一番最初のお見合いの相手ってどんな人だったんですか?あ、それと、この人だったら!って思った人います?」

己では体験出来ない相手との見合いがどんな物なのか興味津々なシャーリーと、今後の為にと少しだけ気力で復活したリヴァルが早業で傍に寄りメモを片手にする姿を見たルルーシュは、やれやれと肩を竦めて割り当てられた書類の処理に戻ろうかと思ったのだが、今上げられた質問の内の一つ。
最初の相手とは、もしかしなくとも己ではなかったか。
だが、まさか馬鹿正直にミレイは言わないだろうと思い直し、ルルーシュは椅子に腰を下ろすと書類を手に取った。
番人であろうと心を砕いてくれている彼女を信頼して。
だが信頼されているミレイは、連日の望まぬ見合いに少しだけ理性を失っていた。

「そりゃ勿論、一番最初の人が運命の人よ!もうこの方と将来を共にするんだって一目会った瞬間から決めて婚約関係結んだんだから!」
「え!?・・・って、じゃあ何で今またお見合いを?」
「会長!?」

頬を染めるシャーリーと青褪めるリヴァルの反応が良くて、ミレイの口はどんどん滑りを良くする。
言いたい事は言うべし。

「年下なんて関係ないわ。この方こそが私の皇子様!!」
「・・・・・・皇子?」

天上を仰ぐ彼女にシャーリーは首を傾げた。皇子って。

「・・・確かミレイちゃんの家って昔、皇妃様の後見人をしてたって。」
「そうなの!?」
「皇子って、じゃあ、もしかしなくてもブリタニアの皇子!?」

思い出したように顔を上げ呟くニーナに目を丸くし、シャーリーとリヴァルは未だ天上を見詰めながら過去を回想しているらしいミレイを見詰めた。

「えっと、アッシュフォードはナイトメアの開発の関係で・・・。ああ、そうだ。庶民出から騎士候まで上り詰めたって言う、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア皇妃の後見人だったんじゃなかったかな。」
「あ、私聞いた事ある。確かテロリストに殺されてしまったって・・・。」

何故そこまで詳しい、ニーナ、シャーリー。
突っ込みたいが下手に話に介入すると可笑しな方向に行きそうだと思いルルーシュは口を挟めない。

「んじゃ、その皇子様って今・・・?」

不穏な話に(アッシュフォードが没落したのは守れなかったせいなのか)とりあえず恋心を横に置き、リヴァルは神妙な面持ちでニーナに問い掛けた。現実に戻って来ないミレイからは聞き出せなさそうだったので。

「確か、戦争が始まる前に妹皇女と共にこの地に送られて亡くなられたって。・・・聞いた事ない?“悲劇の皇族”の話。」
「あ、ある!」

詳しくは知らずともこの地に住むブリタニア人ならば聞いた事がある話の主人公がミレイの運命の相手だと知り、三人は顔を見合わせ沈黙する。何時もハイテンションで、周りの迷惑を省みないような彼女がそんな悲しい過去を持っていたなんて。
俺が忘れさせる、と決意を新たに声をかけようとしたリヴァルは、反対に漸く現実に舞い戻ったミレイに強く肩を掴まれた。

「そうなのよ!でも私は信じなかったわ。きっと生きているって信じてお祖父様とこの地に・・・。」

そして絶望を目の当たりにしたのか。
少しだけ迫力に押され後ずさりかけたリヴァルから手を離し、ミレイはシャーリーとニーナの目の前で腕を振るう。

「漸く生きている姿を確認出来たと思ったら、あろう事かもう自分は皇室とは何ら関係ない身だから誰か他の人と幸せを探してくれ、ですって!信じられる!?私、身分で好きになったんじゃないのに!!」
「「「は?」」」

今彼女は何を言ったのか。
唖然とミレイを見る事しか出来ない三人を余所に、ルルーシュは頭を抱えた。
仕方ないではないか。己は死んだ事になっている(それ以前に庶民出の皇妃の息子と婚約関係など上流階級では蔑まれかねない)のだし、生きている事がばれれば面倒な事になるのは必定。大切だからこそ、愛しいと思えるからこそ幸せになってほしくて婚約関係を(匿って貰っているだけでも恩人なのにこれ以上迷惑はかけられない)解消したと言うのに。と言うよりも、どんどん言わないで欲しい。

「えーっと、会長。その話しぶりだと悲劇の皇族って生きているの?」

その質問は禁止。
シャーリーを止める事が間に合わなかったルルーシュは、答える側を(何故か理性が何処かに行っているから)止めようとしたのだが、ミレイの方が早い。

「公的の立場では亡くなってるけど、ちゃんと我がアッシュフォードが用意した戸籍で生きてらっしゃるわ!」

だから何故暴露するのか。
そこまでストレスが溜まっているのか。
常ならば考えられないほどの暴走振りに対処出来ずに混乱し、立ち尽くすルルーシュに気付いたミレイは足音荒く近付いて。

「私は貴方だからこそ婚約者になったって言うのに身分気にして断るってどう言う事よ、ルルーシュ!?」

名指しで叫んだ。
驚いたのは(先ほどから連続過ぎて思考が麻痺しているが)リヴァル、シャーリー、ニーナの三人だ。
皇子の話をしていたのに、何故ルルーシュの名が挙がるのか。しかも貴方だから、と。
目を吊り上げて叫ばれたルルーシュはルルーシュで、あまりの彼女の剣幕に誤魔化す事も出来ずに(俺じゃない、なんて言えそうもない雰囲気)口籠り、しかしこれだけはと何とか口を開く。

「・・・だが、俺は表には出れない事ぐらいわかっているだろう?出たら出たで、また外交の道具にされるしかない事ぐらい。」

光のない未来に付き合わせたくはないのだと目を伏せるルルーシュに、ミレイは馬鹿ね、と呟き微笑した。
頭が良いのに抜けている皇子様。

「・・・・・私は、身分なんて関係ないって言ったのよ?貴方が“ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア”だろうと、アッシュフォードが用意した“ルルーシュ・ランペルージ”だろうと関係ないの。」

皇室に戻りたくないならば、アッシュフォードが(両親なんてどうでも良い)全力で今度こそ守る。
ランペルージのままでいたいならばそのままで良いから、只一緒にいて欲しいだけ。

「お祖父様だってそう。・・・知ってた?ルルーシュ。私の連日のお見合いが断られるって事を知っているから。お祖父様は何も口を出さないのよ。」
「・・・・・は?」

目を瞬くルルーシュに、ミレイは笑う。
ルーベンは、ミレイがルルーシュを思っている事を。少なからずルルーシュもミレイを思っている事を知っている。
ルルーシュがミレイとの婚約を再び、と望むならば当主の座をミレイの両親を抜かして直ぐにでも譲りたいと思っている事を。
本国との関係なんてどうでも良いと思っている事を。

「・・・・・・・・・・ルーベンが?」
「ええ。」

呆然と呟くルルーシュにミレイは頷いて、欲しい言葉を彼がくれないかと祈った。此処まで言っているのだから、と。
見詰められ、ルルーシュは心の奥深くに静めた本心に問い掛ける。本当はどうしたいのか。
何時も太陽のように明るく、温かい彼女との関係をどうしたかったのか。問う前に答えは決まっていたのだが。

「・・・・・・・・ルーベンに会いに行って来る。」
「!・・・私も一緒に行くわ。」
「ああ。」

望む答えは告げてはくれなかったが、望む未来を与えてくれたルルーシュに満面の笑みでミレイは抱き付き、腕を組んで生徒会室を出て行った。後に残されたのは。

「ルルーシュ君が悲劇の皇族?じゃあ、ナナリーちゃんも皇族だったんだ。」
「ル、ルル・・・・・・・・・・・・・。」
「か、会長・・・・・・・・・・・・・。」

驚くべき事実を純粋に驚いているニーナと、失恋が決定し、滂沱の涙を流すシャーリーとリヴァルだった。